~About主婦の徒然日記~

季節の花々やペットに癒される日々の徒然を綴ります。

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「一平 かの子」 岡本太郎

 
 
『 平 ** 心に生きる凄い父母 ** かの子 』  
 
 
 
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これは〈岡本太郎氏〉が、生前に各雑誌や新聞に、
父一平と母かの子について、書いたものを集めた一冊です。
 
今年は、岡本太郎氏の生誕100年ということで、
TVドラマが放映されたり、所々で特別展も開催されていますが、
岡本氏の作品を観て、人生を知るにつれ、
大きな影響を与えた、母〈かの子〉について、興味が湧いてきました。
 
***
一平はかの子に賭けた。
ところがかの子は一平には賭けなかったのである。
己の生命の炎ともいうべきものにかけていたのだが。
しかしそう言ったのではまだ正確ではない。
実は一平の賭けていた「かの子」にかけてしまったのだ。
そしてそれはあくまでも「一平かの子」なのである。
(本文中216ページ)
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岡本かの子」という文学に、実はまだ触れたことは無いのですが、
大母性ともいえる慈悲深さ、強烈な女性的なイメージが
高く評価されているようです。
 
しかし実生活においては、かの子は良妻賢母とは言い難く、
童女のような稚拙さのある女性だったようです。
実生活を営む能力は、見事に欠落していた。
自分の勉強中に、幼い太郎氏を細紐で結わえて、
箪笥や柱にくくりつけていた、というのは、有名なエピソードです。
驚くべきことに、太郎氏には弟と妹もいたのに
大人になるまで育っているのは、太郎氏だけです。
 
太郎氏は生来頑健だったから、
放ったらかしでも勝手に育ってしまった、というのが事実らしいですね。
子どもの躾などには無頓着でも、
人間としての潔癖純一、ということにはきびしかったとか。
岡本太郎氏が、小学校一年の時に何度も転校している理由、
大人の矛盾を許すことが出来ない純粋さは、
やはり母譲りなのだと思いました。
かなりハードな子ども時代だったのでしょうね。
 
これは心に残るエピソードなのですが、
太郎氏が中学時代、風邪をひいて寝込み、3~4日も床についていた。
その間中、母は看病などせず、顔も見せなかった。
治ってからあんまりだ!と思ってなじると、
母は、「だって、病気してる太郎なんて、きたなくって嫌だから」
とあっさり言ったという。
母らしい愛情の表現に、苦笑しながらも嬉しかった、と書いてありますが
これだけみても、どんな親子関係だったのか?想像することが出来ますね。
 
***
確かに母の情愛は人並みはずれて濃く深かった。
しかし私は母親を持ったとか、かわいがられたという思い出は
ほとんどないと言ってもいい。
彼女ほど、いわゆる母親らしくない、細々とした世話や心配りに
不向きな女性は珍しかったのではないか。
不器用とか世事にうといという以上に、
自分の生きることにひたすら一生懸命で、
子どものことなんか構っていられなかったというのが当たっているだろう。
(本文中179ページ)
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ついつい〈かの子〉のことばかりに興味が行くのですが・・・。
 
父〈岡本一平〉氏の、妙に古風な江戸っ子気質や、
ニヒリストとダンディズム、洒脱さ、世間智と気配り、周到さには、
天性の器量と、飄々とした人物像が見えてきます。
これほどの大人物だから、
狂気に近いかの子の葛藤をも、
丸ごと抱え込むことが出来たのでしょうね。
 
美貌の若い美大生が、ただ一人の女性に邂逅し、
日本橋から、毎日はるばると多摩川を越えて二子に通い、
〈かの子〉を獲得した有名な話。
生活のために、帝劇の背景や漫画を書くようになり、
やがて名声があがり、一代の寵児になり、生活は安定した。
しかし芸術至上主義のかの子にとっては、
それは夢が破れたことでした。
 
父一平氏は、かの子が芸術に心底心を捧げるように、
慈父のごとき深い愛で支えた人でした。
一平がかの子を支えていく決心をしてからは、
一般的な夫婦生活とは異なる道を選んだのです。
その超人的な寛大さ!
常識では考えの及ばないような家族関係でした。
 
かの子の死後、〈一平〉は晩年に再婚し、
何人もの忘れ形見を残して亡くなったので、
女房も子もない太郎氏が、
腹違いの弟と妹を成人するまで保護者として養育した、
というのは、驚くべきことでした。
 
太郎さんの(ベラボー〉で囚われない芸術の原点には、
このような、枠にはまらない家族関係が、
大きく影響を与えていたことは間違いありませんね。
 
「親と子」などと言う、決まり枠の中にはまり込んで、
惰性的になれあってしまわず、
「人間対人間として、ヒタと向い合う、」こと、
それが大事と書かれています。
 
***
私はかつて、かの子ほど誤解された人間はいないと書いたことがある。
あのくらい豊かに単純な人はなかった。
だからこそ、この生命のほとばしりは複雑な影を帯びて
世の人の眼に映った。
(本文中216ページ)
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岡本かの子〉の文学については、なかなか一言には語れませんが、
「母の手紙」(岡本太郎)と、
「かの子繚乱」(瀬戸内晴美)、
この二冊も、是非読んでみたいと思いました。